編集グループ〈SURE〉

大牧冨士夫
ぼくの家には、むささびが棲んでいた
──徳山村の記録

商品写真
「郷土」にこだわることは、決して狭い環境に自らを置くことを意味しない。むしろそのことによって、世界に眼が開かれる可能性を秘めている。

(鶴見太郎氏の解説「『原郷』に立つ」より)


ダムが造られても、村の暮らしの広がりは、この記憶の底に生きつづける。

岐阜県揖斐川上流に造成された「徳山ダム」。
一九八七年、ダム建設のために、徳山村はその歴史を閉じました。
けれど、その村での暮らしを、家に残された記録と追憶から掘り起こして綴る文章は、
この日本のもう一つの行き道を教えてくれます。
 こどものころ、「お日さまが川を渡らっしゃった」と母がつぶやくのを聞いた。午後おそくなると、日が西の山陰に落ちて、村はかげっていく。いつのまにか日は川面を越している。日に照らされて、対岸の山の雑木林の斜面はまだあかあかと明るく映えているので、余計に村のなかは沈んでみえる。刻々と色合いを変えていく山肌の残照を眺めては、その日の仕事を急がされた。氏神の杜で蝉の鳴き声がひときわ高くなり、それは午後も遅くなったと告げているようだった。

(本書「まえがき」より)

2007年4月上旬刊行

定価1,650円(本体1,500円+税)

四六判変形・150ページ
解説 鶴見太郎
イラスト・装幀 北沢街子

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刊行のごあいさつ

このたび、わたくしども編集グループSUREは、大牧冨士夫著『ぼくの家には、むささびが棲んでいた── 徳山 村の記録』を刊行いたしました。

著者の大牧冨士夫さんは、岐阜県の揖斐川上流、旧徳山村で生まれ育った文学研究者・郷土史家です。 故郷、徳山村の小・中学校で長く教鞭もとってこられました。

いま、現地では、過去半世紀にわたる曲折の末に、総工費3500億円を投じた日本最大の多目的ダム「徳山 ダム」の巨大な堤体が完成し、試験湛水(貯水)も始まって、かつての徳山の村むらは大半が水のなかに沈みつ つあります。

けれども、そのことによっても、この山あいの村で数百年にわたって育まれてきた歴史や文化、そこに営まれて きたさまざまな暮らしの事実までもが「なかったこと」にされてしまうわけではないはずです。

大牧冨士夫さんの記憶のなかには、この村の家、その風景の中で経験してきた一つひとつの事柄が、いまも 鮮明に残っています。

また、祖先の庄屋文書や日記類に残された記録を読み解くことを通して、そこに生きた先人たちの知恵、喜び や苦労が、生き生きと甦ってきます。

この日本には、かつて、それぞれの地域の特色を帯びながら、数え切れないほどのそうした村むらがあった でしょう。そこに埋もれかけた豊かな鉱脈を掘り起こし、学びなおしていくのは、いまの私たちにもできることです。 また、そうすることが、現在の私たち自身の暮らしを、もっと深く耕しながら、より良い方向を手さぐりしていける ことにも、つながるのではないかと、わたくしども編集グループSUREは考えています。

この一冊を、ぜひとも皆さまにお目通しいただきたく、お届けする次第です。何なりと、ご高評をたまわれれば 幸いでございます。

徳山村は、かねて民俗資料の宝庫として、民俗学者・柳田国男の年少の仲間、橋浦泰雄が踏査を行ったこと でも知られています。本書の刊行に際しましては、柳田国男・橋浦泰雄研究の専門家で、日本近代史研究者の 鶴見太郎氏から解説「『原郷』に立つ」を頂きました。本書をお読みいただく上での力強いガイドにもなることと 存じます。併せてお読みくださいませ。

編集グループ〈SURE〉(代表・北沢街子)

この本に関する記事

池澤夏樹さんによる書評 (毎日新聞より)

大牧冨士夫さんのこと

 一九二八(昭和三)年、岐阜県の揖斐川上流、徳山村漆原(下開田地区)に生まれ育つ。戦争末期を新潟県村松の陸軍少年通信兵学校にすごす。戦後は、大学卒業後、岐阜市での業界紙記者づとめなどをへて、故郷の徳山村の小・中学校で教鞭をとる。かたわら、『徳山村史』の編集執筆などにたずさわる。一九八五(昭和六〇)年、徳山ダム建設に先立ち、徳山村を離村。

 著書に、『郷土資料──揖斐郡徳山村方言』、『たれか故郷をおもわざる』、『徳山ダム離村記』、『研究中野重治』(共著)、『三頭立ての馬車』(共著)、『中野鈴子』などがある。


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